認知症になると、不動産の売却はどうなる?

不動産の売買契約は、ご本人が内容を理解し、自分の意思で判断できること(意思能力)が前提です。民法では、意思表示をしたときに意思能力がなかった場合、その法律行為は無効とされています(民法第3条の2)。

そのため、判断能力が低下したあとは、家族信託や任意後見契約などの事前の備えがない限り、たとえ家族であっても、親名義の家を代わりに売ることはできません。「子どもが代わりに署名・押印すればいい」という方法は、のちのトラブルにつながるため避けてください。

選択肢①:成年後見制度を使う

判断能力が低下した後に使える代表的な方法が、家庭裁判所に申し立てる「法定後見制度」です。判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。家庭裁判所が選んだ成年後見人が、ご本人に代わって財産を管理し、売買契約などを行います。注意したいのは次の点です。

  • 後見人は家庭裁判所が選びます:申立書に候補者を記載できますが、記載した方が必ず選ばれるわけではありません。事案に応じて、弁護士・司法書士などの専門職が選ばれたり、複数の後見人が選ばれたりすることもあります。希望した人が選ばれなかったことを理由に、不服を申し立てることはできません
  • 居住用の不動産の売却には、家庭裁判所の許可が必要です:民法859条の3により、ご本人の居住用の建物やその敷地を売却・賃貸などする場合は、事前に家庭裁判所の許可を得る必要があります。許可を得ずに売却した場合、その売却は無効になります
  • 「居住用」には、今は住んでいない家も含まれることがあります:病院や施設に入っている方が、過去に住んでいた家や、退院などで将来戻る可能性がある家も、居住用不動産に含まれます
  • 許可の判断は慎重に行われます:申立書には、売却の必要性(施設費用の捻出など)を具体的に記載します。家庭裁判所のハンドブックでは、価格の相当性を示す資料(不動産会社作成の価格査定書や固定資産評価証明書など)の保管が案内されています。そのため、事前の査定が重要になります
  • 後見は、本人を守るための制度です:ご本人の財産は、ご本人のために使うのが前提です。相続税対策のための贈与や、資産運用などは、原則として認められません

選択肢②:元気なうちに備えておく

判断能力がしっかりしているうちであれば、次のような備えができます。ただし、これらの契約を結ぶにも意思能力が必要で、判断能力が低下してからでは結べない場合があります。

  • 家族信託:信頼できる家族に、財産の管理・処分を託す契約です。仕組みの詳細は「認知症になる前に、実家の管理を託しておく?『家族信託』の基礎知識」をご参照ください
  • 任意後見契約:将来、判断能力が低下したときの後見人をあらかじめ決めておく契約で、公正証書で結びます。判断能力が低下したら家庭裁判所に申し立て、任意後見監督人が選ばれたときから契約の効力が生じます
  • 売却・住み替えの方針を家族で話し合う:必要なら、早めに売却を進める選択肢もあります

どの方法が合うかは、ご家族の状況や不動産の使い道によって変わります。

今からできる準備

まずは、実家の登記簿上の名義人(親本人か、すでに亡くなった祖父母のままか)を確認しましょう。名義が亡くなった方のままの場合は、相続登記が必要です(相続登記の義務化)。あわせて、おおよその価値を知っておくと、施設費用や今後の方針を考えやすくなります(机上査定と訪問査定の基礎知識)。10月は帰省や行楽で家族が顔を合わせやすい季節です。年末年始の前に、少しずつ話し合いを始めておくと安心です。

まとめ

  • 判断能力が低下すると、事前の備えがない限り、本人名義の不動産は家族でも自由に売れません
  • 成年後見制度では、居住用不動産の売却に家庭裁判所の許可が必要です
  • 元気なうちの家族信託や任意後見契約など、早めの備えが選択肢を広げます
  • 制度の詳細や手続きは、司法書士・弁護士などの専門家や、お住まいの市町村の窓口にご確認ください

ご実家の将来について迷われたら、oota不動産の相続相談やかんたん無料査定をお気軽にご利用ください。糟屋郡の地域事情を踏まえて、一緒に考えます。

※本文は、民法の条文や裁判所の公表資料に基づく一般的な内容です。個別のケースや手続きの詳細は、司法書士・弁護士などの専門家や、家庭裁判所にご確認ください。

この記事の監修
太田 秀一郎
株式会社oota不動産 代表取締役/宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士

糟屋郡を中心に、不動産の売買・賃貸・管理・相続のご相談をお受けしています(宅地建物取引業 福岡県知事免許(1)第20299号)。詳しくは代表の思い・会社概要をご覧ください。